ショートストーリー
明日への贈り物 Episode1
「変わりたい」自分自身へ向き合うことを決めた母
いばらきの子どもと子育てファミリーへある家族の物語をご紹介します。
この物語が誰かの救いや気づき、そして児童虐待防止につながることを願って。
自分のトラウマや育児への不安をはじめて打ち明けた夜
「なんでこの子は何もしないのに愛情をもらえるんだろう」
その日、私ははじめて、自分に伸ばされた息子の小さな手を払った。息子はちょっと驚いた顔をしたものの、いつものようにブロックで遊び出した。その夜、スヤスヤと眠る息子の寝顔を見て、私は涙が止まらなかった。無償で愛情を注がれ、誰の顔色も気にせずに甘えることができる息子が「ずるい」と感じてしまったのだ。
私は今、夫と2歳の息子との3人暮らし。
息子との距離の取り方が分からなくなってから数日後、寝かしつけを済ませてリビングに戻ると、夫が口を開いた。「どうしたの?何かあった?」その瞬間、涙が溢れて止まらなかった。母にもっと愛して欲しかったこと、息子への愛情の注ぎ方が分からなくなってしまって、虐待してしまうんじゃないかと不安なこと、変わりたいと思っていること。仕舞っていた思いと共に、子どものようにわんわん泣く私の背中を撫でながら夫は静かに話を聞いてくれた。そして、「話してくれてありがとう。一緒に向き合っていこう」。
それから私は、夫が見つけた子育てサロンに通い、家の外で過ごす時間もつくっている。夫もこれまで以上に育児に関わり、私と話す時間を取るようになった。この不安や戸惑いを取り除くには時間がかかるかもしれない。それでも、自分とも、息子とも、家族で向き合っていきたいと思う。
※取材した実例をもとに一部フィクションを加えています